大学二年生の岡本正人が大谷慶子から家に来て欲しいと頼まれたのは4月中旬の少し暑く感じる日の夕方でした。 大谷慶子は岡本が部屋を借りているアパートのオーナーで、30部屋あるこのアパートは若死にした父から慶子が相続したのものでした。慶子はアパートの隣の二階建ての自宅で9歳の小学三年生になる一人息子と今は二人暮しをしているのでした。 慶子より三歳年上の夫は勤めている会社のタイの工場に転勤になり、昨年の9月から慶子は息子との二人暮しを余儀なくされているのでした。慶子は息子共々タイに移住することも考えたのですが、息子を医者にする夢を持っている慶子は、高い大学進学実績をあげている 中高一貫校に合格させる為に日本に留まることにしたのでした。 「岡本さんにお願いがあるんですけど・・・」 岡本が大谷家を訪ねると、慶子にリビングに案内され、氷で冷やされたコークを岡本に勧めて慶子が口を開きました。 「何でしょうか?・・・」 今年で35歳になった慶子はスタイルの良い妖艶な女性で、岡本は慶子の美しさにどぎまぎしながら応えました。 「うちの晃一の勉強をみていただきたいんですけど・・・」 「あぁ息子さんですね、息子さんの勉強をですか?」 「そうです、晃一の家庭教師をしていただきたいんです・・・岡本さんは立派な名門大学の学生さんだし・・是非、晃一の勉強を見ていただきたいんです・・ダメでしょうか?・・」 慶子が岡本に家庭教師を頼んだわけは、アパートには岡本の他にも大学生が居たのだが、岡本が一番の名門校の学生であったことと、体格が良く、上品な顔立ちをした岡本は慶子のタイプだったからでした。 「イエ、夜であれば大丈夫ですけど・・・」 「エ!いいんですか・・・夜でいいです・・夜の8時ぐらいから2時間か3時間晃一の勉強を見ていただければ、とっても嬉しいぃんですけど・・・」 「夜は、何もすることがありませんから、大丈夫です・・・」 岡本にとってもまたとない良い話でした。地方から上京している岡本は実家からの送金だけでは生活が苦しく、何か新しいアルバイトを見つけなければと考えていた矢先だったのでした。それに、アパートは慶子の家の隣であり、ましてや上品な美人の慶子としょっちゅう顔を合わし、会話が出来ると思うと岡本にとって渡りに船の慶子の申し出だったのです。 「良かったぁ・・・これで助かるわぁ・・・ところで、毎日でもいいんですか、日曜日以外は?・・」 「僕はいいですけど、息子さんは、えぇっと晃一君と言われましたっけ・・・晃一君は疲れないですかねぇ、毎日だと・・・」 「いいんです、大丈夫です・・・あの子には頑張ってもらわないといけないですから・・・」 「晃一君は、将来の希望を何かお持ちなんですか?」 「エェ、晃一を医者にしたいんです・・・晃一を医者にするのが私の夢なんです・・・それに晃一自身も医者になりたいと言ってますから・・・晃一の気持ちは変わるかも知れませんけど、私は何としても晃一に医者になって貰いたいの・・・それを叶えるだけの支援は十分にしてやりたいの・・・」 息子の晃一の将来の話になると慶子はいつも熱くなるのでした。 「それじゃ・・・時間割等を晃一君と決めてください。僕が来る日を決めていただければ、それに合わせて僕がお邪魔しますから・・・」 「イヤイヤ、時間割等も岡本さんと晃一で決めて欲しいわぁ・・・晃一の得手不得手なところは岡本さんの方が分かるでしょうから、岡本さんと晃一で決めて欲しいの・・・」 「晃一君の得手不得手が分かるまでには少し時間がかかると思いますが・・・」 「それもそうねェ・・・・じゃあ、岡本さんに来ていただく日と時間を先に決めましょうか・・・月水金は8時から11時までの3時間、そして、火木土は8時から10時までの2時間と言うことでいかがかしら・・・この線で岡本さんに都合をつけていただきたいんですけど・・・」 何としても息子を医者にしたいと思う母親の熱意が伝わり、岡本も慶子の提案を受け入れることにしたのでした。 慶子は給金についても月水金が5,700円、火木土が3,800円を岡本に提案しました。 普通のアルバイトの時給よりも有利な提案に岡本は恐縮しながら了解したのでした。 「岡本さん、ちょっとここで待っててね、晃一を紹介しますから・・・」 慶子が言ってそそくさとリビングから出て行き、息子の晃一を連れて戻ってきました。 晃一は聡明そうな顔付きをした、素直な子供でした。岡本は性が合いそうな晃一に一安心し、来週の月曜日から家庭教師を始める約束をして、アパートの部屋に戻ったのでした。 FC2 ブログランキング 人気ブログランキングへ にほんブログ村 |